|2019年1月11日|クローン病の新しい薬「ステラーラ」とは

クローン病は、小腸と大腸を中心に口から肛門までの消化管のいたるところに炎症や潰瘍ができる慢性の炎症性疾患です。

クローン病の患者さんは国内に約5万人近くいると推定され、日本人においては男性が女性より多く(男女比2:1)、10~20代で発症する方が多いという特徴があります。その主症状は、腹痛、下痢、発熱、体重減少、肛門の痛みなどです。

クローン病が起こる原因はまだよくわかっていませんが、免疫(外敵から身を守るための体の働き)の異常が関係していると考えられています。人間の体には、細菌やウイルス、異物などから体を守るための免疫と呼ばれる防御システムがあり、免疫にはさまざまなサイトカインと呼ばれる生体物質が関わっています。最近の研究結果では クローン病において 免疫を担う細胞の中の1つのマクロファージがこのサイトカインのうちの、“インターロイキン(IL)”や“腫瘍壊死因子(TNF)α”などの物質を作りすぎることにより、腸管の炎症が起きることがわかってきました。サイトカインのなかで ILは非常に重要な役割を果たしており、特にIL-12とIL-23がクローン病の発症に深く関わっていると報告されています。IL-12とIL-23は炎症を起こす細胞をさらに活性化させることにより、その結果クローン病が発症するのでないかと推測されています。

ステラーラ®は、炎症や免疫反応を引き起こしているこのIL-12とIL-23の働きを弱めることによって消化管の炎症を抑え、腹痛や下痢などのクローン病の症状を改善するお薬です。
クローン病においてはレミケード、ヒュミラについで3番目に保険承認された生物学的製剤です。ステラーラはIL-12とIL-23に対して働く抗体を、バイオテクノロジーにより人工的に作製して医薬品にしたもので、このような薬は生物学的製剤と呼ばれます。

従来の化学的に合成される医薬品に比べると、標的に対して高精度で強力に働くことから、高い治療効果が期待でき、実際の臨床でその強い効果が示されてきました。これまで使用されてきたレミケード、ヒュミラはILの中で腫瘍壊死因子(TNF-α)を抑える製剤で、生物学的製剤という点では同じですがステラーラはIL-12とIL-23を抑えるところが異なります。

投与の対象となる方は 既存治療で効果不十分な方、あるいは中等症~重症でレミケード、ヒュミラの効果が不十分な方です。抗TNF-α抗体(レミケード、ヒュミラ)とは異なる標的を抑えるので抗TNF-α抗体が効かない患者さん、または最初効果があったが効果が弱くなってきた患者さんに治療効果が期待でき、より多くの患者さんが救うことができるようになったと感じています。

ステラーラ®は、最初に点滴注射にて投与します。その8週後の2回目の投与は皮下注射で、その後は12週間隔で同様に皮下注射で投与します。治療効果が弱くなれば、投与間隔を8週間に短縮できます。自己注射ができるヒュミラとは違って通院により院内で投与します。投与間隔が長い(基本的には3ヶ月)のと皮下注射なので投与時間が短いのがメリットです。

国際共同治験では生物学的製剤をすでに使用したことがあるが 効果が減弱したり投与の最初から効果がなかった患者さんたちにも まだ一度も生物学的製剤を使用したことがなく既存治療(ステロイド、エレンタール、ペンタサなど)が効かなかった患者さんたちにも有効であったという結果でした。

またステラーラはレミケード、ヒュミラと異なり完全にヒトと同じたんぱく質でできているので 効果減弱の原因とされる抗薬剤抗体ができにくので 長期にわたって効果が有効であることが期待されます。副作用は実際の臨床で長期に使用した報告を参照してみますと 頭痛 筋肉痛 関節痛 感染症などが多いようです。中止にいたる副作用としては呼吸器感染症などが挙がっています。これまで使用してきた生物学的製剤:抗TNF-α抗体(レミケード、ヒュミラ)と同様に感染症には注意が必要と思われます。

では実際の臨床ではどうでしょうか? 次回は当クリニックでの経験を報告する予定です。

この記事のを書いた人

石田 哲也

石田消化器IBDクリニック院長

大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員