|2018年1月25日|ステロイドの副作用を減らしたクローン病の薬「ゼンタコート」

クローン病は消化管に炎症を生じる病気です。
おもに小腸から大腸さらには肛門に非連続性の病変を生じ深い潰瘍ができます。慢性に経過し、活動期には下痢、腹痛、血便、下血、肛門病変(痔ろう、肛門周囲膿瘍)、外瘻(腸と皮膚がつながり 大変痛い)ができます。
全身症状として、発熱、全身倦怠感、貧血がみられ、栄養障害から体重減少、体力低下にもつながります。再燃と再発を繰り返すのが特徴で、病状が進行すると手術で腸を切除しなければならなくなります。

以前はクローン病になって10年たつと約80%の患者さんが手術を受けていました。
クローン病は原因が未だ不明で根本治療法がなく、治療目標は炎症反応の抑制、組織の治癒および症状を軽減して、入院しないようにし手術を受けなくすることです。

これまで病気の程度があまり重くない軽症 中等症のクローン病の治療はメサラジン製剤(ペンタサなど)、ステロイドと経腸栄養(エレンタール、ラコールなど)が主体でした。症状が軽い場合は経腸栄養を併用しながらペンタサなどを投与し 効果がなければステロイドを投与していました。

しかし、ステロイドは、副作用が多いのが難点です。
飲み始めに多いのは、いらいら感、不眠、消化不良、下痢、吐き気、食欲増進、ムーンフェイスといって顔がふっくらしたり、肩やおなかが太ることなどの脂肪の異常沈着などが起こります。服用が長めになると、にきび、むくみ、生理不順なども起こります。
大量もしくは長期の服用においては、副腎不全、ウイルス性肝炎を含め各種感染症の誘発、血糖値の上昇、骨が弱り骨折する、胃潰瘍、気分の落ち込み、眼圧上昇、白内障、動脈硬化、血栓症、筋力低下などの重い副作用が起こることがあります。
また、長期に服用した状態で、急に中止すると重い反発症状がでる危険性があります。ステロイド治療効果が高いのですがこのように副作用が多いのが困ります。

それに対し、ゼンタコートはクローン病治療の第一選択薬として1995年のスウェーデンにおける承認を初めとして、2016年9月までイギリス、アメリカを含む世界40カ国以上で承認されている世界的なお薬です。

このゼンタコートは、ステロイド薬を遠位小腸および結腸近位部で放出するように設計された腸溶性徐放製剤です。
有効成分のステロイドの一種であるブデソニドは局所で作用する強力なステロイドです。
局所作用型(腸内でゆっくり溶け出し、患部に直接作用し抗炎症作用を発揮する)なので、一般的なステロイド経口剤に比べ安全性が高いことが示されています。腸から吸収されて肝臓ですぐ代謝されるため、全身作用が少ないのです。

このため、ペンタサなどで十分に症状がよくならない場合、あるいは回腸から上行結腸に病変がある、軽症から中等症の活動期クローン病のかたが最もゼンタコートが良く効く症例です。
ただし あくまでステロイドですがから寛解導入(症状が悪いときに使用する)に用いるもので、長期の維持療法には向きません。通常、成人はブデソニドとして3錠(9mg)を1日1回朝経口服用します。ゼンタコート9mgはプレドニン40mg(8錠)に相当するとのことです。2ヶ月程度服用し投与を終了します。プレドニンのように8錠→6錠→4錠→…….と少しずつ減量する必要はありません。

いろいろなデータをまとめてみますとゼンタコートはステロイドより治療効果が劣るものの副作用は少ないので安全性が高いのが最大の長所です。このお薬の良さを最大限に引き出すためには使用に際して主治医の先生とよく相談することがよいでしょう。

この記事のを書いた人

石田 哲也

石田消化器IBDクリニック院長

大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員