|2018年5月11日|生物学的製剤が効かなくなったらどうすればいいの?

本ページは、クローン病と潰瘍性大腸炎の総合情報誌「CCJAPAN」vol.103(2018年4月26日発売号)掲載された石田院長の記事をご紹介しています。

Q:生物学的製剤とはどんな薬ですか?

生物学的製剤は、バイオテクノロジーを駆使して作られた医薬品です。生物の働きを利用して生み出されたタンパク質がもとになっており、従来の化学合成薬とは大きく違う面があります。
近年、多くの疾患で使用されていますが、炎症性腸疾患(IBD)で使用される生物学的製剤は抗体製剤、すなわち患者さんの体の中にある炎症物質に対して働きかける薬です。抗体というのは、病原菌などの異物が人の体に入ってきた時、それを体から追い出そうとする働きをもった、免疫機構の一部です。異物といっても菌や、ウィルスや、がん細胞などさまざまな物があります。抗体は、それぞれの異物だけを標的にして作られます。
いわばひとつの異物に対して、ひとつの抗体ができるので、よく鍵と鍵穴の関係に例えられます。

IBDに起こる炎症に関する物質(炎症性サイトカイン)はいろいろありますが、TNFαというサイトカインの働きを抑えるのが抗TNFα抗体製剤です。
例え話でいうと、本来TNFαが入る穴にくっついて炎症を起こす命令を出すところを、抗体製剤が先にTNFαにくっついて命令を出せないようにするというしくみです。
日本のIBD治療では抗TNFα抗体製剤と抗IL-12/23p40抗体製剤が使われています。抗TNFα抗体製剤は、レミケード、ヒュミラ、シンポニーの3つで、抗IL-12/23p40抗体製剤はステラーラという商品名です。潰瘍性大腸炎(UC)にはレミケード、ヒュミラ、シンポニーが、クローン病(CD)にはレミケード、ヒュミラ、ステラーラが保険適用になっています。

生物学的製剤の登場によりIBDの治療は大きく前進し(特にCD)、入院や手術が減少し患者さんの生活の質が著明に改善したと思います

Q:どのような使い方をするのですか?また効果や副作用はどうちがうのでしょうか?

生物学的製剤は、IBDでは寛解導入、寛解維持に使えます。投与法は、点滴か皮下注射に分かれます。この治療の適応は、既存の治療(5−ASA製剤:ペンタサ、アサコール、リアルダ、サラゾピリン、アザチオプリン:イムラン、アザニン、ステロイド:プレドニンなど)で効果不十分な中等症から重症の患者さんです。では、それぞれの薬について基本的な投与方法などを説明します。

●レミケードはIBD領域では日本で一番早く、2002年CDに保険適用になった生物学的製剤です。
当初は、寛解導入だけに認められていましたが、2007年からは寛解維持にも使えるようになりました。点滴投与で、体重1kgあたり5㎎を、初回投与してから、2週後、6週後に投与し、問題がなければ以降8週間ごとに投与します。
UCに対しては2010年から保険適用になっています。
投与方法はCDと同じ点滴です。一般的には2時間程度かけて点滴を行いますが、CD UCいずれも4回目以降には問題がなければ1時間ほどに点滴時間を短縮することが認められました。
レミケードは一部(約25%)がマウス由来のタンパク質で構成された、キメラ型モノクローナル抗体です。

●ヒュミラは皮下注射で、1回目は160㎎を投与します。そして2週後に80㎎を、以降は40㎎を2週ごとに投与します。
ヒュミラの特徴は自己注射、すなわち自宅で、自分で投与ができる点です(通院して病院で注射してもらうこともできます)。また皮下注射なので投与に時間がかかりません。
投与方法・用量はCDとUCで変わりありません。人によって感じ方は違いますが、以前は注射する際にそれなりの痛みがありました。しかし最近薬液が改良されて、ほとんど痛みがないという方が多くなりました。さらに近々ペン型注射器も登場する予定で、いろいろ選べるようになっています。ヒュミラはヒト型抗体といって、マウス由来のタンパク質を含まない抗体製剤です。

●シンポニーは皮下注射で、初回200㎎を投与します。2週後に100㎎を投与し、以降は100㎎を4週ごとに投与します。ヒュミラと同じ皮下注射での投与で、投与に時間がかからない点も同様ですが、自己注射ではなく、医療機関を受診して注射してもらいます。
シンポニーもヒト型抗体でマウス由来のタンパク質を含んでいません。作り方が工夫され、含まれるタンパク質はよりヒト型に近いと言われています。前述のようにシンポニーはUCにだけ使われます。

●ステラーラは投与方法が他の薬剤と異なり、初回は点滴で体重により決められた用量を投与します(体重55kg以下の方は260㎎、55~85kgの方は390㎎、85キロ以上の方は520㎎)。その8週後に90㎎を皮下注射で投与、以降は12週ごとに皮下注射で投与します。皮下注射は医療機関で投与します。
ステラーラもヒト型抗体であり、マウス由来のタンパクは含まれていません。CDにのみ適応です。

それぞれの薬で効果や副作用に大きな違いないといわれています。病状などのため主治医が薬剤を選択する場合もありますが そうでない時は、投与方法や投与間隔を考慮して、患者さんのライフスタイルに合った薬剤を選択すると良いでしょう。どの薬も重篤な感染症や活動性の結核などがある方には投与することができません。事前によく検査することが必要です。

副作用としては、頭痛や鼻咽頭炎、上気道感染などの比較的軽度なものから、敗血症、結核、アナフィラキシーショックなど重篤なものが報告されています。

抗TNF-α抗体では皮膚に発疹などがでることがあります。また生物学的製剤の投与による悪性腫瘍の心配をされる患者さんもいます。確かにその発生はゼロではありませんが、現在では過度に心配しすぎることはないと考えられています。
点滴や注射で投与した際に、投与時反応、あるいは注射部位反応というものが起こる場合があります。主なものは発熱や発疹、頭痛、呼吸困難、血圧低下、注射した部位の腫れ 痛みなどで、軽いものから重いものまでさまざまです。
抗ヒスタミン剤やステロイド剤などを用いることで多くの場合は反応が治まり投与継続することができます。

Q:効果が切れてきたらどうすれば良いのですか?

生物学的製剤を投与して当初効果が見られた方で、寛解維持を継続している間に、だんだんと次の投与時期の前に効果がなくなりIBDの症状が悪化する場合があります。
これを二次無効と言います。それぞれの薬剤でその割合に大きな違いはありませんが、一定の患者さんに起こりうることです。薬剤ごとに二次無効になった場合の対処を説明します。

●レミケードでは、CDの方で効果が減弱してしまった方は、倍量投与(体重1kgあたり10㎎)、あるいは投与量は変えずに投与期間短縮(最短で4週間隔まで)することが可能です。レミケードでは免疫調節薬(アザチオプリン)を併用することで効果減弱が起こる可能性が少なくなると言われています。
UCでは、今のところ倍量投与も期間短縮投与も認められていません。

●ヒュミラでは、CDで効果が減弱してしまった場合に、1回80㎎まで増量できます。UCでは増量は認められていません。

●シンポニーは今のところ、増量は認められていません。

●ステラーラは、効果が減弱してしまった場合には投与間隔を8週毎に短縮して投与することができます。

増量や短縮投与しても 効果減弱のため次回の投与までに症状が出現する場合は 生物学的製剤と、他の治療(血球成分除去療法や栄養療法、ステロイドなど)を組み合わせることが有効な場合があります。

現在使用できる生物学的製剤には限りがあり、一般的には一度投与を開始した生物学的製剤は、同じ製剤を投与を工夫することにより長く使うことが推奨されます。
増量や投与期間短縮、次回投与までプレドニンやゼンタコート(CDの場合)で症状を抑えるなどの対応をしても、コントロールが難しい場合には、別な生物学的製剤への変更を検討します。

この記事のを書いた人

石田 哲也

石田消化器IBDクリニック院長

大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員