2021/3/27 IBDA(Anus)を語る会 in 佐賀
福岡大学筑紫病院 二見 喜太郎先生 講演
「IBDの長期経過を考える」
医療関係者のみならず患者達に本当に惜しまれながら今春で福岡大学筑紫病院を退官される二見先生がIBD(潰瘍性大腸炎 クローン病)患者さんの長期の経過を講義していただきました。クローン病ですが 肛門の痔瘻が腸管病変より先に発症することがあります。若い方で腫れていて切開後の治りが悪い複雑な痔瘻はクローン病の初発症状かもしれません。クローン病による痔瘻の最初の治療が上手くいかないと腸の潰瘍はなおっても肛門病変だけ改善せず膿が出続けることがあります。こうなると切開を繰り返し、とうとう人工肛門や骨盤内全摘の手術になることがあります。炎症性腸疾患患者さんの死亡率は健常人と比較してとても高いことはありません(クローン病、潰瘍性大腸炎の患者さん全体の平均の死亡年齢は一般の方とあまり変わりません)が、若い年齢、仕事をして働ける年なのに発癌し死亡に至ることあります。(死亡した患者さんの平均年齢:クローン病40代 潰瘍性大腸炎50代)クローン病において発病後25年たつと発癌のリスクが上昇しアミロイドーシスや腎臓が悪いと予後がよくありません。最近 バイオ製剤が使用されるようになり腸を何度も手術する患者さんは減ってきましたが、腸の切除手術を繰り返し、特に残存小腸が160㎝以下になると 初回手術から20年で10%の方が短腸症候群(腸の機能がなくなる)に陥り経口摂取ができなくなり 自宅でも点滴が必要になります。平均するとクローン病 潰瘍性大腸炎の2.5%のかたが発癌しますが 手術で癌のすべてを取ることができなかったり術後に潰瘍性大腸炎やクローン病が再発する方は予後がよくありません。クローン病の患者さんの発がんのリスクは 病気の発症した年齢が若く 病変範囲が広く 重症、原発性硬化性胆管炎を合併しているなどです。直腸肛門部に局所浸潤した低分化癌が多くみられます。また小腸癌は比較的珍しい癌ですが原因としてはクローン病が多く 早期発見のための検査がしにくいので難治性の瘻孔 狭窄は手術したほうがよいかもしれません。腫瘍マーカーは早期発見に役立たず発見時、他の臓器に浸潤していることが多く根治治療ができないことが多いです。 肛門部の癌の早期発見のためには定期的に内視鏡をして肛門部を観察し麻酔をかけて生検することが大切ですが継続して実施するのは難儀なことです。潰瘍性大腸炎も発症後年数がたつと発癌のリスクが高まりますが10年以内に発癌することもあります。潰瘍性大腸炎に合併する癌の特徴は90%以上が下行結腸から直腸の間に発症し多発し低分化で若い方にも発症する点です。発癌を予防するためにはお薬をキチンと服用 投薬して治療を継続する(アドヒアランスの向上)とサーベイランスの内視鏡検査で早期に発見することです。発症後7年以上した左側型 全大腸型の患者さんは寛解期に年1回癌の早期発見のための大腸カメラの検査を受けた方がよいでしょう。生検は怪しいところがあればそこから、直腸はランダムに1か所生検するとよいとされています。(但しこのようにサーベイランスしても40%が進行がんでした)。平坦で早期の病変(dysplasia)はどのように経過をみるか、治療するかまだコンセンサスはありません。潰瘍性大腸炎に合併した癌の治療は原則として大腸全摘です。発癌した部分だけ切除すると術後に潰瘍性大腸炎が再発して結局全摘になることもあります。潰瘍性大腸炎 クローン病に合併した癌は病気の活動性に関連するのでできるだけ寛解になるよう治療することが大切です。バイオ製剤 分子標的薬の治療が発癌を減らすかはまだよくわかっていません。癌治療後5年は原則としてステロイド 免役調節薬 バイオ製剤は使用しないことになっていますが実際は発癌する患者さんは病気の活動性の高い方が多いので術後炎症が再燃して薬物治療を再開することが多いです。