2021/7/7 Takeda 全国 Web Seminar

 

ひだ胃腸内視鏡クリニック 院長 樋田 信幸 先生が潰瘍性大腸炎 クローン病の病態と潰瘍性大腸炎におけるエンタイビオの使用方法を教えてくれました

 

腸管免疫は体内の恒常性維持に大きな役割をなしその主体は調節性T細胞で免疫寛容を担当します。獲得免疫の主役はT細胞ですがその働きにより分類され Th1:細菌 Th2:寄生虫 Th17:真菌 として生体防御に役立っています。腸内細菌の乱れをdysbiosisとよびますが これが起こると 腸管上皮細胞の透過性が亢進し(leaky gut)、マクロファージの過剰応答を引き起こします 低繊維食、高脂肪、過衛生、抗生剤使用などがdysbiosisの原因となります。腸内細菌の酪酸産生菌は調節性T細胞(Th1,Th17)を誘導しやすくし腸内の炎症を抑えます

潰瘍性大腸炎は病態が複雑で多彩なサイトカインプロフィールを呈します。主として獲得免疫が主体ですが形質細胞 好酸球も潰瘍性大腸炎の病態形成に重要です。

クローン病は病態形成に自然免疫 dysbiosis、TNF-αが大きな比重を占めます

潰瘍性大腸炎とクローン病の病態の違いは まず潰瘍性大腸炎ではTh2、Th17がクローン病より多くなっています。Dysbiosisはあまり認めません、クローン病では絶食が治療になりますが潰瘍性大腸炎で絶食自体に根本の病態改善効果はありません。

臨床的には抗TNF-α抗体の効果に大きな違いがあり その1次無効は潰瘍性大腸炎:33%、クローン病:13%です クローン病のサイトカインの主役はTNF-αですが 潰瘍性大腸炎はTNF-αだけでなく個人個人 病気の時期などにもより病態形成に主役をなすサイトカインが異なります。治療前に主役となっているサイトカインを確実に確認できる方法は現在のところありません。

エンタイビオはその作用機序サイトカインプロフィールによらず リンパ球の腸管炎症局所への浸潤を抑える局所治療です。その結果炎症を起こすM1マクロファージを抑え 炎症抑制作用のあるM2マクロファージが増加します。

最近の海外文献報告では潰瘍性大腸炎治療において 最初に使用した場合の効果はエンタイビオの方がヒュミラよりすぐれていました。2年後の維持効果もエンタイビオの方がレミケードより優れていました。最初に抗TNF-α抗体よりエンタイビオを投与したほうがよい理由はまずエンタイビオが局所治療で全身に影響が及ぶ抗TNF-α抗体より副作用が少ないからです。またExosome(エキソソーム)は、ほとんどの細胞で分泌される直径 50nm ~ 150nm 程度の膜小胞です。生体では唾液、血液、尿などで観察され その働きは、離れた細胞や組織に情報を伝達するための役割を担っています。エクソソームには様々なタンパク質や脂質、RNAが含まれており、別の細胞に運搬されることによって機能的変化や生理的変化を引き起こします。抗TNF-α抗体を先に投与するとexosomeの働きによりインテグリンα4β7が増加しエンタイビオの効果が低下する可能性が指摘されています。治験のデータでもエンタイビオは2番目に投与すると効果が低下しています。

エンタイビオの副作用では全身の感染症は低率ですが新たに20%の患者さんに末梢関節炎が発症するそうです。