2022/1/13 木曜会基調講演会

新時代のクローン病・潰瘍性大腸炎の診断と治療

杏林大学医学部 消化器内科学 教授 久松 理一 先生

 

治療薬の改善と患者さんの管理が向上したので2000年を境に潰瘍性大腸炎 クローン病の手術率は減少傾向です。治療の目標は粘膜治癒ですが組織学的治癒が次の目標になりそうです。

この治療目標を達成するためのアプローチ方法としてT2Tが提唱されています。臨床寛解→バイオマーカー正常値→粘膜治癒の達成を目指して 定期的に検査し 治療を修正していきます。バイオマーカーとしては便中カルプロテクチン LRGが使用されます。

便中カルプロテクチンは好中球の小腸 大腸への浸潤を反映します。その特徴として

①腸管炎症を反映するがIBDに特異的ではない(大腸癌、ウィルス性胃腸炎、憩室炎などでも上昇する)

②クローン病ではLRGの方が鋭敏

③さまざまな因子によって影響を受ける(年齢 肥満 運動量 食物繊維 薬剤:NSAIDsなど) 新型コロナ感染症でも上昇します

④カットオフ値が検査法 報告によって異なる(国内でも3製品が使用されている)

⑤直腸炎では内視鏡と相関しないことがある、回腸嚢炎とは相関する

⑥原則3ヶ月毎にしか測定できない 内視鏡検査と同月に測定できない

これらの特徴から便中カルプロテクチンは一人の患者さんで経過を追うとよいでしょう。

LRGはIL-6を介さない炎症をチェックできますが腸管特異性はなく 炎症の種類を問わず上昇します。

またクローン病 潰瘍性大腸炎治療において最も大切なのは 患者さん-医師の関係が良好であることです。通院がまちまち 薬をキチンとのまない 自己注射が不定期 便中カルプロテクチンを持ってこない クローン病で禁煙を指示されたがやめない など 患者さんの治療へのアドヒアランスが不良であれば T2Tや治療optimization 等行っても予後の改善にはつながりません。

イムランは使い慣れないと使いにくいお薬でしたがNUDT15で最も重篤な副作用は予防できるようになりました。クローン病でヒュミラを用いて治療するさいは女性 体重が重い患者さんはイムラン併用のほうがよいでしょう。併用した場合6ヶ月以上経って寛解維持していればイムラン中止も可能です。現在 炎症性腸疾患において7種類 生物学的製剤、分子標的薬が使用できますが治療開始前にどのお薬が効果があるかを予測することはできません。