2021/1/26 関東甲信越LRG Forum

 

岩手医科大学の仲先生が司会をして 東邦大学 松岡先生、慶応義塾大学 金井先生、東京女子医科大学 大森先生、北里大学北里研究所病院 小林先生など日本の錚々たるメンバーが参集して LRGの基礎からクローン病、潰瘍性大腸炎の臨床応用までlecture discussion してくれました。

潰瘍性大腸炎 クローン病の治療のゴールは患者さんからすると「病気が発症する前と変わらない生活をずっと続けることができる」です。そのためには粘膜治癒(大腸カメラで潰瘍がまったくない、粘膜の状態が発症前の状態に戻っている) 組織学的治癒(顕微鏡で検査し炎症がない)を達成することが必要です。このためには病状を的確に継続して把握すること モニタリングが大切で 粘膜治癒を達成できていなければ そのつど治療を変更していきます。クローン病では小腸病変の評価が困難なので画像評価のかわりにバイオマーカーを使用してもよいと推奨されるようになりました。これまでの代表的なバイオマーカーはCRPですが CRP正常であっても小腸に潰瘍が存在する場合があります。最近、血清バイオマーカーとしてLRGが使用できるようになりました。LRGはクローン病 潰瘍性大腸炎の内視鏡による疾患活動性を反映し、特に潰瘍性大腸炎ではCRPより鋭敏です。CRPはIL-6の刺激により肝臓で産生されます LRGはIL-6だけでなくTNF, IL-22などの刺激により粘膜上皮より産生されます。CRPとLRGは炎症を別々の面から捉えています。LRGはベーチェット病、結核 関節リウマチなどの他疾患でも上昇するので評価のさいに注意が必要です。患者さんそれぞれで疾患活動性の最も反映するバイオマーカーは異なります。LRGを利用して CRPや便中カルプロテクチンを組み合わせるとモニタリングの精度を向上させることができます。

クローン病において小腸に潰瘍がある患者さんにとって小腸の粘膜治癒がとっても大切です。小腸粘膜治癒が達成されると再燃 入院 手術が減ります。小腸粘膜治癒の達成には適切なタイミングで画像評価を行い治療強化を行うことが肝要ですが 小腸の画像評価:小腸内視鏡 MREC カプセル内視鏡 小腸造影などは侵襲、アクセスの点で施行困難な場合が多いのが現状です。LRGはクローン病小腸潰瘍を反映できるバイオマーカーで LRG>CRP>CDAI(臨床症状)の順に鋭敏です。CRP<0.3の小腸潰瘍をLRGは検出できます。但し線維性狭窄ではLRGは上昇しません。現在LRGのカットオフ値:16ですが小腸潰瘍の有無の判定には<13.4がよいでしょう

小腸カプセル内視鏡はクローン病の診断 モニタリング 治療後の評価 術後の評価などに有用です。小腸カプセル内視鏡の炎症評価のスコアにLEWISスコア(LS)がありますが クローン病による下痢 腹痛などの症状がなくてもLS>350であると2年後に再燃する確率が高くなります。臨床寛解(CDAI<150) CRP<0.3でも小腸カプセル内視鏡を行うと60%で小腸に潰瘍が見つかります。小腸カプセル内視鏡で粘膜治癒を予測するにはLRG<14です。

クローン病患者さんの小腸病変を評価する方法は ダブルバルーン小腸内視鏡 小腸カプセル内視鏡 MREC CTE 小腸造影 腹部エコーなどがありますがそれぞれ長所 短所があるので患者さんの病状 施設の状況に合わせて選択するとよいでしょう。小腸潰瘍をよく反映するのは便中カルプロテクチンよりLRGです。便中カルプロテクチン<100ならクローン病小腸病変の活動性はほとんどありませんが >250なら潰瘍がある可能性が高いです。LRG<9なら粘膜治癒、LRG≧16なら小腸活動性病変がある可能性が高いです。

潰瘍性大腸炎においてもLRGは粘膜炎症の重症度スコア(UCEIS)と正の相関を示し完全粘膜治癒 <11です。寛解導入は<13を目指します。LRGは寛解状態の潰瘍性大腸炎症例の再燃の指標となり 再燃前に約30%の患者さんでLRGが上昇(>13または5以上増加)します。但し再燃しても上昇しない場合もあります。患者さんそれぞれで寛解状態でのLRG値が異なるので寛解維持中に元の値より5以上増加したときは再燃の可能性が高いと判断するとよいでしょう。治療が奏功するとCRP→LRG→便カルプロテクチンの順に改善していきます。組織学的治癒の判定には内視鏡検査よりも便カルプロテクチンの方がより鋭敏かもしれません。

FCP:腸管炎症のみを反映 回腸嚢炎も反映できます。但し新型コロナ感染症でも上昇します。

LRGは腸管特性はなく炎症の種類を問わず上昇します。