2022/10/27 JDDW2022 サテライトシンポジウム
新規経口潰瘍性大腸炎治療薬 カログラについて 東邦大学医療診療部佐倉病院 消化器内科教授の松岡先生が講演してくれました。
日本人潰瘍性大腸炎患者に対してカログラを投与した治験においてその効果は投与後12週まで上昇します。潰瘍性大腸炎の罹病期間で効果に差はありません。病型では左側大腸型が最も高い有効性を示しました。副作用の頻度はプラセボと相違ありません。最も懸念される副作用:進行性多巣性白質脳症(PML)です。PMLは致死的疾患で 回復しても中枢神経系の後遺症が残りやすいとされています。JCウィルス(JCV)は通常小児期に感染しほとんどは無症候性で腎臓や骨髄に潜伏感染しており 日本人では成人の70%以上が抗JCV抗体陽性です。PMLは免疫抑制が原因でJCVが再活性化し脳に感染することで発症します。通常はα4陽性T細胞がJCV再活性化を防御してくれています。カログラの作用機序はα4インテグリンの発現低下による炎症部位への白血球遊走抑制ですが 同じ作用機序のバイオ製剤であるタイサブリ(ナタリズマブ)で海外ではPMLの発症が報告されています。通常の発生頻度は人口1000万人に対し約1名と非常にまれな疾患ですが タイサブリを使用すると1000人に1名程度になります。タイサブリの投与期間が6ヶ月以内での発症の報告は0例ですが 免疫調整剤を併用し投与期間が2年以上を超えるとPMLの発症リスクが20倍になります。日本ではカログラの投与期間は6ヶ月以内に制限されているのでPMLの発症はまずなさそうです。治験でも報告されていません。
カログラの潰瘍性大腸炎治療において投与が適した患者さんは 5-ASA製剤で完全に寛解にならないがステロイドを投与するほど活動性が高くない、全大腸型で局所製剤を併用しても効果がない 臨床寛解であるが内視鏡で観察すると潰瘍が残っている などです。また高齢者 ステロイドの副作用が懸念されるかた ステロイドの副作用を忌避するかた なども適応になるでしょう。カログラは維持治療には使用できず またイムランと併用もできないので カログラ中止後再燃する回数が2回以上になった時はエンタイビオにスイッチするとよいでしょう。カログラの有効性は外来管理可能な程度の活動性(できれば軽症より)の患者さんが最適で 安全性はPMLに対する注意が必要ですが日本の投与方法を守ればまず発症することはないと思われ、その他の副作用の頻度は低く重篤なものはありません。受容性は経口薬である点はよいところですが錠数が多い(1日24錠)のが欠点です。