2022/12/2 リンヴォックインターネットライブセミナー
作用機序から読み解くリンヴォックの適正患者像
兵庫医科大学 消化器内科 教授 新崎 信一郎先生が上記の演題で講演してくれました。
潰瘍性大腸炎の治療においてステロイドを正しく使用することが非常に大切です。プレドニン投与開始量が10㎎/日以下であると長期にステロイド投与することになります。実際には2016プトデータにおいて 中等症患者さんには30~40㎎/日がステロイドの投与開始量ですがステロイドを投与した患者さんの1/4は投与開始量が20㎎/日でした。
ステロイドの作用機序はそのレセプターであるグルココルチコイドレセプター(GR)が中心であり、GRαとGRβの2種類があります GRαは①抗炎症性遺伝子を活性化する②炎症性遺伝子を抑制する③TNF-αやIL-6などのmRNAの安定性を不安定化してその発現を抑える このような作用機序でステロイドは強力な抗炎症作用を発揮します。
LPS,TNF-α、IL-8, IFNγなどの高サイトカイン血症が継続するとGRβが増加し 炎症関連遺伝子の発現増加を起こしステロイドの効果が落ちてきます。ステロイド依存症を作らないことが重要です。
ステロイド依存症に効果があるお薬はチオプリン(イムラン アザニン)です。チオプリンの濃度が高くなる副作用のリスクは欧米人ではTPMP遺伝子多型、日本人ではNUDT15(Cys/Cys)です。アロプリノールと5-ASA製剤の併用はチオプリンの血中濃度を上昇させます。日本人ではリンパ腫のリスクは低く また わずかですが メラノーマでない皮膚がんが増加します。
潰瘍性大腸炎 クローン病(炎症性腸疾患:IBD)の病態のカギのサイトカインであるIl12/23は細胞内伝達にJAK-STAT系を利用しています。T細胞の分化を抑え間接的に炎症を抑制します。TNF-αはNFκβ系を利用し直接炎症を抑えます。
炎症の細胞内伝達がサイトカイン発現のボトルネックでありJAKは4種類 STATは6種類あります。ここに異常があるとIBDが発症するとされているIBD感受性遺伝子はJAK2、TYK2, STAT1,3,4が同定されています。細胞内伝達にJAK-STAT系を利用しないサイトカイン:代表例:TNFαもあるので 理論的にはJAK阻害薬は全ての潰瘍性大腸炎に有効ではありません。
リンヴォックは主としてJAK1を抑える経口のお薬です。治験の成績では短期8週ではプラセボと比較すると寛解:4倍、改善:3倍です。排便の切迫感 腹痛などの症状も早期に改善します。維持1年の成績ではプラセボと比較すると30㎎/日:4倍 15㎎/日:3倍です。長期の維持治療が可能と思われます。投与1年間の副作用は帯状疱疹:4% 好中球減少:6%で 安全性はゼルヤンツやジセレカと大差ないようです。但しJAK1選択性が高いのですが他のJAKも抑制するので副作用にはやはり注意が必要です。1日1回服薬でよいのが利点で、有効性が高いので入院患者さんにも適応があるかもしれません。JAK阻害薬は有効性と安全性のバランスを考慮して選択することが大切です。