2022/4/22 消化器病学会 モーニングセミナー
新規経口潰瘍性大腸炎治療薬 カログラについて 大阪医科薬科大学の中村先生と慈恵会医科大学の猿田先生が講演してくれました。
潰瘍性大腸炎治療の基本は5-ASA製剤とステロイドですが、ステロイドの全身投与後の長期予後は不良で70%以上の患者さんはステロイド治療が失敗し次の治療が必要になります。またステロイド依存症に陥り種々の副作用に悩ませる患者さんもいらっしゃいます。ステロイドを使用せずに寛解導入できる治療が臨床に登場することが望まれていました。またこれまでの生物学的製剤、分子標的薬を使用した臨床経験より 今後の新規薬剤も求められる特徴は 効果発現が速やかで、2次無効が生じにくく、一時休薬ができることです。
カログラは低分子化合物の経口薬(飲み薬)です。TNFαなどの刺激により接着因子の発現が亢進しますが カログラは白血球と血管内皮細胞の接着因子の相互作用を抑制して炎症を抑えます。接着因子を抑制すると通常は獲得免疫の抑制につながるのですが 最近の研究ではマクロファージの遺伝的変化も引き起こし自然免疫の抑制にも関与することがわかってきました。日本人の中等症の潰瘍性大腸炎患者さんを対象とした治験におけるカログラの短期治療成績(8週)は寛解:23%、有効:60%で、12週まで継続すると寛解:50%、有効:70%に上昇します。投与後8週で効果がなければ24週まで投与継続できます。一度中止後に再投与しても同程度の効果があります。感染症などの一般的な副作用は少なく比較的安全なお薬ですが カログラと同じ作用機序の別のお薬(ナタリズマブ)で とてもとてもまれ(1000万人に0.9人)ですが致死的な疾患:進行性多巣性白質脳症の発症が報告されています。これは潜伏感染していたJCウィルスの再活性化により発症します。短期間の投与(8ヶ月未満)では発症の報告はなく 抗JCV抗体陽性で、投与2年以上の長期に免疫抑制した患者さんに発症が見られました。カログラの治験での発症の報告はありません。カログラの適応は5-ASA製剤を高用量投与しても効果がない患者さんでステロイド投与の前 ステロイドの代わりに投与します。再燃したときに繰り返し投与が可能です。但しこのお薬は1日24錠服用しなければなりません。服薬期間は長期でないのですがそれにしてもキチンと24錠/日服用できる患者さんは多くはないでしょう。薬剤師さんの助けを借りて服薬アドヒアランスを向上させることが最も重要です。