2022/1/25, 2022/4/5 潰瘍性大腸炎の病態と治療
浜松医科大学 内科学第一講座 教授 杉本 健 先生の講演をお聞きし 潰瘍性大腸炎の病態の部分をまとめました。潰瘍性大腸炎のわかりにくい病態をスッキリさせてくれ、さらに実際に臨床での薬剤の使用方法を示唆してくれた大変素晴らしい講演です。解釈に間違いがあるかもしれませんがそこは小生の見解ですのでご勘弁ください。
炎症性腸疾患:IBD(潰瘍性大腸炎 クローン病)はまだ根本治療はなく 治療の基本は炎症や過剰な免疫反応を抑えることです。IBDの病態はサイトカインプロフィールによりTh1,Th2,Th17,に分けられます。クローン病はTh1,Th17が主体とされています。それに対し潰瘍性大腸炎は 以前はTh2が主体とされていましたが 最近の研究よりヘテロなサイトカインプロフィールを有する疾患となってきました。本来生体内ではTh1,Th2,Th17のバランスがとれているのですがIBDではそのバランスが崩れています。サイトカインプロフィールは患者さんにより異なるし、病気が初期か後期かでも異なることもあり また治療により変化する場合もあります。本来患者さんの現時点でのサイトカインプロフィールを制御できるお薬を投与するのが最も良いのですが 事前にサイトカインプロフィール、パターンを判別できるバイオマーカーは残念ながら現在は臨床にはありません。
現在臨床で使用されているお薬をサイトカインプロフィール別に特徴づけてみると
5-ASA(ペンタサ アサコール リアルダ サラゾピリン):特にどれを強くおさえるわけではないようです
ステロイド:様々なサイトカイン産生を抑制するが 特にTh2を抑制(花粉症 ぜんそくなどアレルギー疾患に著効する) Th1優位な疾患(クローン病など)には効果が限定的で ステロイド抵抗性の時はTh17が優位になっている
イムラン、ロイケリン:リンパ球増殖抑制効果があり幅広いサイトカイン産生の抑制
プログラフ:強いTh1抑制(IL-2抑制、IFNγ抑制)
抗TNFα抗体(レミケード ヒュミラ シンポニー):Th1抑制(クローン病 関節リウマチに著効)
ステラーラ:Th17抑制が主、作用機序からはTh1(IL-12)、Th17(IL-23) を抑制するが関節リウマチ(Th1優位)には効果がない Th2には関与していない
ゼルヤンツ:理論的にはJAKが関係するサイトカインを広く抑制するが花粉症(Th2優位)には効果ないのでTh1,Th17抑制が主
エンタイビオ:白血球が毛細血管の隙間から出られないようにする薬なのでどれか特異的におさえるわけではない
これらをまとめると
Th1優位:抗TNFα抗体(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)プログラフ ゼルヤンツ
Th17優位:ステラーラ ゼルヤンツ
Th2優位:ステロイド、エンタイビオ(ステロイドは維持治療には使用できないので)
実際にはサイトカインプロフィールは現時点では検査できないので臨床像から推測すると
Th1:関節痛 ステロイド抵抗例
Th17:皮疹(乾癬) 病理:腺管への好中球浸潤
Th2:花粉症 喘息 アトピー、ステロイド依存例 大腸粘膜で好酸球が多い
最近PGE-MUMという尿中マーカーが注目されています(まだ臨床では使用できません)
腸管粘膜PGE2濃度と相関し 便中カルプロテクチンやLRGと同様に 粘膜治癒の判定や再燃予測に役立ち Th17優位を表すと報告されています。そこでまずPEG-MUMを測定し、高値であればTh17優位なのでステラーラ ゼルヤンツ、低値であれば大腸粘膜を観察し 好酸球が多ければ(強視野 >50)Th2優位でステロイド エンタイビオ 少なければTh1優位で抗TNFα抗体(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)プログラフと選択できます
将来こんなことができるようになればよいですね!