2022/7/22 カログラ錠WEB講演会

潰瘍性大腸炎の基本治療を再考する

-経口α4インテグリン阻害剤の登場を踏まえて-

 

上記の演題で 新規経口潰瘍性大腸炎治療薬 カログラについて 銀座セントラルクリニック院長 鈴木 康夫 先生が司会をされ 大阪医科薬科大学 第二内科 教授 中村 志郎 先生と大堀IBDクリニック院長 吉村 直樹 先生が講演してくれました。

 

インテグリン(integrin)は 細胞膜タンパク質で,αとβサブユニットからなります。細胞外マトリックスタンパク質に対する受容体としてはたらき,白血球と内皮細胞との細胞接着に重要な役割を果たします。また細胞 – 細胞の接着にも関与します。タンパク質分子としては、α鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるヘテロダイマーであり、異なるα鎖、β鎖が多数存在し、多様な組み合わせがあります。白血球には発現する代表的な接着因子にはα4β7とα4β1があります。TNFαを代表とする催炎症性サイトカインにより発現が亢進し、α4β7は腸に親和性のあるリンパ球に特異的に発現しますがα4β1は炎症の激しくなった多くの白血球に発現します インテグリンα4やβのコード遺伝子はIBDの疾患感受性遺伝子としても知られています。内皮細胞側のリガンドとしてはVCAM-1,  MAdCAM-1 などがあります。これらの接着分子も炎症の程度に応じて発現が増強します。

エンタイビオはα4β7に対する抗体ですがα4はマクロファージにも発現しているので炎症性マクロファージを抑制して自然免疫にも影響しています。

α4 インテグリンは好中球を除く全ての白血球に発現し、ホーミング及び接着機能を媒介します。カログラの作用機序はα4 インテグリンとそのリガンドとの相互作用を阻害で、これらの分子間相互作用の阻害により、単核白血球が血管内皮細胞を通過して炎症組織に遊走することが抑制されます。 実臨床での使用法としては5-ASA 不耐患者さんに寛解導入治療として使用できます。ステロイド依存例に対し投与しステロイド終了できます。バイオ製剤効果減弱例に対しワンポイントで投与しバイオ投与継続できるようになります。左側型の患者さんが再燃したときに注腸製剤の受け入れが良くないときに投与します。

経口剤であるので投与終了後再燃したときにon demandで投与できるのが良い点ですが 投与終了後2ヶ月も持たず再燃する場合は他の治療に変更したほうがよいでしょう。

カログラの位置づけとしては5-ASA高用量投与患者さんが再燃したときにステロイドの前に投与するとステロイド回避に役立ちます。1日24錠服用しなければならないので不便なところです。薬剤師さんと協力してチェックシートなどを利用して飲み忘れを防ぐことが重要です。同じ作用機序のおくすりとしてタイサブリ(ナタリズマブ)があります。

このお薬の副作用として進行性多巣性白質脳症(PML)があります。四肢麻痺 感覚障害 高次脳機能障害 球麻痺などの多彩な症状が出現し致死的な疾患です。JCウィルス(JCV)の再活性化が原因の中枢神経の感染症です。JCVは小児期まで不顕性に感染していることが多く 日本では成人の約70%が抗JCV抗体陽性です。タイサブリを投与すると白血球が中枢神経に進めなくなるのでJCVが中枢神経に浸潤することができ発症してきます。タイサブリによるPMSの致死率は20%で他の原因によるPMSより生存率が高いですが生存者の約40%に重篤な後遺症が残っています。アメリカではタイサブリがクローン病治療に使用され有効性も確認されていますがクローン病症例でのPMS発症も報告されています。タイサブリ投与でPMS発症のリスクが高いのは抗JCV抗体:陰性、免疫調節剤併用、2年以上の継続投与です。カログラはタイサブリより半減期が短く 投与期間も6ヶ月以内であるのでPMS発症のリスクはほとんどないと考えられ また実際にカログラではこれまでPMSの報告はありません。カログラは髄液中のCD4/CD8の回復に2ヶ月要したのでカログラ終了後の再投与には2ヶ月間隔を開けなければなりません。