2022/07/6 Ulcerative Colitis 全国Webセミナー 高齢化時代の潰瘍性大腸炎治療を考える

高齢発症潰瘍性大腸炎の臨床的特徴とその注意点

杏林大学 消化器内科学 准教授 松浦 稔 先生

 

高齢潰瘍性大腸炎患者における治療戦略

岡山大学病院 炎症性腸疾患センター センター長 准教授 平岡 佐規子 先生

 

上記のテーマで松浦先生と平岡先生が講演してくれました。

 

高齢者IBD患者さんには 若年 壮年で発症し時間の経過と共に高齢になった高齢化IBDと60歳以上で発症した高齢発症IBDの二つがあります。高齢発症IBDは全体の10~15%と言われています。

海外での高齢者潰瘍性大腸炎の特徴は 発症時に血便 腹痛などの典型的な症状が必ずしも多くない、初回発作時はより重症ですが経過は軽微なことが多い、左側大腸型がおおく 口側への進展が少ないなどです。

日本人の潰瘍性大腸炎では高齢発症は10%程度で重症 入院 手術 全大腸型 併存癌 複数の併存疾患を有するなど多いのが特徴で ステロイドの使用、疾患の高活動性が手術のリスクになります。

高齢者IBDは多剤併用が問題となることが多く 5-ASA製剤はワーファリンの抗凝固作用を増強しますが ステロイドやチオプリンは減弱させます。アロプリノール、5-ASA製剤はチオプリンにより骨髄抑制を増強させ NSAIDs、5-ASA製剤はプログラフによる腎障害を増強させ クラリスやCa拮抗剤はプログラフの血中濃度を上昇させます。高齢者IBDでは感染症により抗TNFα抗体の投与が中止になることが多いです。またステロイドの有効性は低くなり その有害事象は増えます。

エンタイビオは55歳以上とそれ以下で有効性に差はありません。腎機能低下の患者さんには5-ASA製剤はサラゾピリンに変更します。

高齢者(>80歳)または合併症あり 心肺機能低下患者さんの場合 ステロイドの投与量は中等症で最大30mg  重症で40mgです。抗TNFα抗体は高齢者では1次無効が増えます。白血病 リンパ腫 皮膚癌 婦人科 泌尿器科系の悪性腫瘍を有する患者さんにはチオプリン投与は避けます。エンタイビオやステラーラは担癌患者さんでも投与可能です。抗TNFα抗体は投与しても 新しい癌の発生は促進せず、 既往癌の再発を早めることもないと報告されています。高齢者潰瘍性大腸炎患者さんの治療は基本的には非高齢者とかわりありませんが 数値にあらわれない機能低下に注意し また症状にだまされず客観的に評価し 非高齢者よりも早めの効果判定が必要です。