2023/4/28 オンボー ネットフォーラム

潰瘍性大腸炎治療におけるミリキズマブへの期待

杏林大学医学部 消化器内科学 教授 久松 理一 先生

 

潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんの予後は2004年を境に改善してきています(手術率の低下)。多くの新薬が臨床で使用可能となり またバイオマーカーなどの登場 T2Tアプローチの普及などで経過観察の技術が向上したのがその理由かもしれません。経過観察中には絶えず目標を意識し漫然と同じことをするのではなく目標に達していなければ検査して評価し治療が上手くいっているか評価 認識することが大切です。医師も目標と患者さんの治療上の希望が一致していないことがあります。患者さんは困っているのに医療関係者が認識していないことがあります。Shared Decision Makingにより患者さんに医療に参加していただき その一致を目指すことが必要です。

患者さんの求める事の一つにQOLの向上があります。潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんのQOLを下げる事のひとつにBowel Urgency、Fecal Urgency:便意切迫感があります。「便意を感じてからどのくらいが我慢できるか?」「便意を感じてからすぐに排便したくなるか?」のような意味です。下痢回数 腹痛 血便などとは異なる独立した症状で Mayo scoreなどの従来の炎症性腸疾患の評価指標には用いられていません。最近の治験では便意切迫感の改善が薬効の指標の一つとして使用されてきています。但し定義が統一されていないので今後はその統一が必要です。

IL12/23はnaïve T細胞がTh1/Th17 T細胞に分化するのに役立っています。IL12はTh1細胞への分化に IL23はTh17細胞への分化に必要です。腸炎においてIL12は全身の炎症に IL23は局所の炎症に関与します。潰瘍性大腸炎患者さんの大腸炎症粘膜にはIL23p19の発現が亢進しています。ミリキズマブ(オンボー)はp19に対する抗体製剤で、IL23を抑制しTh17細胞により惹起される炎症を抑えます。潰瘍性大腸炎患者さんに対する大規模治験の成績では短期(12週)の寛解率:24% 有効率:64% 維持期52週においてもプラセボより統計学的に有意差を示すことができました。投与後4週ぐらいで腹痛 下痢回数 血便などの臨床症状が改善されます。便意切迫感も投与後2週ぐらいから改善してきます。生物学的製剤未使用者のほうが使用者よりも良い治療成績を残しました。約1年間の投与では特異的な副作用 重篤な副作用な認めていません。

抗ミキリズマブ抗体は日本人で約30%の頻度で検出されます。2次無効の発生に影響があるかは今後の報告待ちです。

分子標的薬の使い分けは 投与前に有効性を示すマーカーは今はまだないので これまでの治療歴 腸管外合併症のあるなし チオプリンを使用できるかできないか、患者さんの好み 利便性などを勘案して行います。

ステラーラの2次無効患者さんに有効かどうかはオンボーではまだはっきりしていませんが 他のp19抗体製剤では有効例が報告されています。

他の症状がよくなっているが便意切迫感が残っている 便回数が減らない時には直腸の炎症が完全によくなっているかを確認する必要があります。