20230830 フェインジェクトWEB講演会

炎症性腸疾患における貧血治療の診断と治療について

上記の演題で 福岡大学医学部 消化器内科 教授 平井 郁仁 先生が講演してくれました。

 

人間の細胞は20兆から60兆個ですがその80%以上は赤血球です。そのため貧血になると体の細胞の多くが失われるのできつさを感じることは不思議ではありません。女性は若い年齢層で20%以上が貧血ですが男性は70歳以上になると20%程度で貧血になります。

消化管疾患における貧血の原因は 鉄の喪失または吸収低下です。吸収低下が原因としては 胃切除 A型胃炎 ヘリコバクターピロリ菌感染 胃粘膜萎縮 PPI使用 細菌の異常増殖 腸切除またはバイパス クローン病 などです。もう一つ,鉄の利用障害による   慢性疾患に伴う貧血:Anemia of Chronic Disease: ACDがあります。ヘプシジン(hepcidin)は,肝臓で産生される抗菌ペプチドです。ヘプシジンの発現は鉄負荷とインターロイキン6などの炎症性サイトカインによって増加し,細胞の鉄輸送体であるフェロポルチンの発現を低下させることによって,マクロファージからの鉄の放出と腸管からの鉄の取り込みを抑制します。慢性炎症があると 肝臓でのヘプシジン産生が増加し ヘプシジンの過剰産生はマクロファージを介した鉄のリサイクルを抑制し,造血系で利用できる鉄を減少させて貧血を引き起こします。

鉄欠乏性貧血は小球性 正球性貧血ですが 大球性貧血の場合はサラゾピリンによる葉酸欠乏 アザチオプリンによる骨髄抑制を考えます。ビタミンD不足も貧血になります。

潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんの鉄欠乏性貧血を放置すると入院や手術が増加するので適切な治療が必要です。経口鉄剤は炎症性腸疾患の病状がひどいとき 胃薬(PPI, H2B)を使用している カフェインと同時に服用する と吸収が低下します。また消化管内の過剰な鉄はリーキーガットの原因となり潰瘍性大腸炎 クローン病の悪化を引き起こすかも知れません。ヘモグロビン値<10の場合は鉄剤の静注治療を行います。副作用は過敏症 頭痛 血中リン減少 AST/ALT上昇などです。潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんの半数は貧血を呈しています。特にクローン病では貧血の原因としてACDも多くみられるのでクローン病自体を治療することが貧血改善につながります。