2024/4/20 ゼルヤンツ全国講演会

豊富なエビデンスから考えるJAK阻害薬の位置づけ

 

炎症性腸疾患(クローン病 潰瘍性大腸炎)は慢性消耗性疾患で生活の多岐にわたり弊害をもたらします。

潰瘍性大腸炎は長期的にみると約50%の患者さんに疾患活動性があります。治療目標は粘膜治癒で これを達成すると再燃 入院 手術 癌発生のリスクが減少します。

炎症の経路の1つであるJAK-STAT経路は 4つのJAK(JAK1, JAK2, JAK3,  Tyk2)と7つのSTATの組み合わせにより多彩な作用を制御します。JAK-STAT経路は細胞内シグナル伝達の上流と下流両方のリン酸化を司っています。現在 日本で使用できるJAK阻害薬:ゼルヤンツ ジセレカ リンヴォックの3種類ですが その違いは阻害するJAKの種類と阻害の程度です。JAKの選択性によって説明のつく有効性や副作用ななく、JAK1の選択性が高いから有効性が高いとか副作用がでやすいとかというわけではありません。

ゼルヤンツは相対的にJAK1, JAK2, JAK3の阻害効果が他のJAK阻害剤より高いという特徴があります。JAK阻害剤は経口薬です。バイオ製剤はアルブミンの値により血中濃度が左右されますが経口薬はかわらないのが利点の1つです。実臨床でのデータでは ゼルヤンツはTNFα抗体無効例に対して4週で約40%の方が治療に反応し、反応すると約1年は効果が維持されます。1年後の内視鏡での完全寛解は15%です。バイオ未投与の患者さんの方が長期に寛解維持できています。投与後3年の治療継続率は50%で 副作用は帯状疱疹、ざ瘡 感染症でした。維持治療では 16週以上10mg/日で維持する、また6ヶ月後の大腸カメラでMES:0の患者さんが減量後の再燃が少なく、抗TNFα抗体不応例 内視鏡検査でMES1の場合は10mg/日で維持したほうがよいでしょう。

日本における潰瘍性大腸炎に対するゼルヤンツの市販後調査では全体の30%がバイオ未投与の患者さんに投与され 65歳以上の患者さんも10%程度含まれていました。長期的には半数の患者さんでゼルヤンツ投与が中止となり 中止理由の50%は効果不十分で 20%が副作用でした。帯状疱疹の発生率は年率6%でした。8年間の全世界での大規模治験による安全性の評価においては重篤な有害事象:20%、中止:12% 帯状疱疹発症のリスクは高く 白人の発生率3%に比して日本人は7%と有意に高率でした。重篤な帯状疱疹の発生は多くありません。心疾患 腫瘍 血栓症のリスクは増加しませんでした。検査値でCPK上昇がありますが重篤な横紋筋融解症はほとんどありません。JAK阻害薬は即効性があるので早期に症状が改善しないと社会的にも困る患者さんが良い適応です。

65歳以上 心疾患を有する患者さん 喫煙者(既往を含む) 発癌リスクのある患者さんなどは他のお薬を試してから その次に使用したほうがよいでしょう。