2023/8/29 Ulcerative Colitis Practice Seminar
札幌医科大学の仲瀬先生がご司会をされ ひだ胃腸内視鏡クリニックの樋田先生、JCHO東京山手メディカルセンターの深田先生 福岡大学の平井先生らが潰瘍性大腸炎におけるエンタイビオの治療の特に安全面に関して討論してくれました。
エンタイビオは活性化白血球の腸管への遊走を抑制するバイオ製剤なのでサイトカインプロフィールの作用されない局所の治療です。自然免疫の過剰応答には影響を及ぼしません。エンタイビオの副作用に関節炎があります。新規に発症するのは20%ぐらいです。関節炎の発症頻度は抗TNFα抗体よりも多いですがステラーラと同程度です。もともと関節炎を有する患者さんは40%が悪化し そのうちの10%が投薬中止になっています。関節炎以外の腸管外合併症は特に悪化することはありません。腸管感染症の増加もエンタイビオの副作用の1つで クロストリジウム ディフィシル腸炎が少し増加します。サイトメガロウイルス腸炎にも注意が必要です。
エンタイビオは潰瘍性大腸炎ステロイド難治例に対する治療法の中で最も安全性が高いお薬です。エンタイビオは疾患活動性は軽症よりの中等症で 高齢者 透析患者 担癌患者など副作用の発症が懸念される患者さんに適応があります。比較的2次無効の少ないお薬ですが最近臨床で使用可能となった皮下注製剤は効果減弱がさらに少ないかもしれません。
潰瘍性大腸炎は 腸内細菌に対する自然免疫(抗原提示細胞)と獲得免疫(T細胞)の過剰な活性化が発症メカニズムの1つです。抗原によって産生されるサイトカインが決定され そのサイトカインの種類により増殖するT細胞が決定されます。最近の研究の進化に伴い病態に応じた メカニズムに合わせた治療薬が開発されています。以前は寛解導入の有効性が高い、すなわち強いお薬が主体でしたが 最近は病態が許せば 副作用が少なく 長期安定 利便性の高いお薬も登場し選択できるようになりました。
潰瘍性大腸炎の臨床において、治療困難な患者さんは多剤無効な再燃寛解例と軽症中等症の慢性持続例です。また治療開始前にお薬の治療効果予測ができない、そのようなバイオマーカーがないことが大きな問題です。しかし将来的には 臨床所見(フェノタイプ)、免疫所見(イムノタイプ セロタイプ)、薬理学的所見(メタボリックタイプ)、細菌学的所見(マイクロビオティックタイプ)遺伝子所見(ジェノタイプ)により個々の患者さんのバイオタイプに応じた個別化医療が可能になると思われます。