2024/8/8 UC Internet Live Seminar

潰瘍性大腸炎における非難治例治療の実際

―カログラ錠が適する患者さんとは―

大阪医科薬科大学 第二内科 専門教授 中村 志郎 先生がご司会され 兵庫医科大学 消化器内科 主任教授 新崎 信一郎 先生が上記演題でご講演されました。

 

潰瘍性大腸炎治療の基本は5-ASA製剤とステロイドです。5-ASA製剤は粘膜に直接作用し局所の自然免疫を制御して炎症を抑えます。1日1回の5‐ASA製剤の寛解導入率は30%程度です。有効率は70%程度です。逆に考えると30%の方は5-ASA製剤の治療では効果がない、40%の方がまだ症状が残っています。

また5-ASA不耐は日本では8%ぐらいです。発熱 腹痛 下痢など潰瘍性大腸炎の増悪によく似た症状が投与後平均11日で起こってきます。5-ASA製剤で不応(効果がない)不耐(副作用で使用できない)の患者さんはこれまでステロイド治療が適応でした。ステロイド製剤の内服による全身投与は初回の投与では短期的には70%が改善し、34%が寛解になります。しかし2年後には効果のあった患者さんの40%はステロイド依存症になり次の治療が必要になります。またステロイド再投与のたびに有効率は低下します。ステロイドを2回目 3回目と再治療するときには他の治療を考慮する必要があります。

潰瘍性大腸炎の病態は発症からの時期によって変化し また炎症が慢性化することでも変化していきます。ステロイドの全身投与がトリガーとなり潰瘍性大腸炎の病態の多様性を2次的に引き起こしている可能性もあります。ステロイド難治例は病態が多様性で複雑ですがこれはステロイド治療の結果かもしれません。

インテグリンは細胞-細胞間や細胞-細胞外マトリックス間の相互作用を担う膜貫通型の糖タンパク質です カログラはインテグリンのうち白血球のα4インテグリンの発現を抑制することにより α4β1とVCAM-1及びα4β7とMAdCAM-1との結合をdualに阻害する経口のお薬です。

カログラは全身の免疫機構を大きく変えずに炎症局所へのリンパ球(Th細胞)好酸球浸潤を抑制します。ただし中枢神経 皮膚への浸潤も抑えてしまいます。そのためカログラと同じ作用機序のお薬でバイオ製剤であるタイサブリ(ナタリズマブ)は欧米においてすでに臨床で投与されていますが致死的な神経疾患:PML(進行性多巣性白質脳症)の発症が報告されています。その症状は けいれん しゃべりにくい 手足のまひ 意識の消失または低下 物忘れなどです。カログラはPML発症の潜在リスクを持ったお薬なので6か月以下とされている投与期間を遵守することが最も大切です。日本では治験 実臨床ではこれまで報告例はありません。治験の結果では投与終了後 再投与でも初回と同様の治療効果があります。市販後調査の中間解析では頭痛 蕁麻疹 嘔気などの軽度の副作用が10%程度報告されています。軽い頭痛はだんだんよくなります。3回目の投与で効果発現はさらに早くなった患者さんもいます。カログラ投与に適した患者さんは5-ASA製剤の不応 不耐 コレチメント無効 依存の患者さんです 特に5-ASAで改善したが寛解に達しない あと一歩の患者さんに適しています。