|2018年5月6日|潰瘍性大腸炎の治療で保険承認された生物学的製剤
シンポニーは潰瘍性大腸炎の治療で保険承認された3番目(他はレミケード、ヒュミラ)の生物学的製剤です(2017年5月)。
レミケード、ヒュミラ、シンポニーはいずれもTNFα※(ティー・エヌ・エフ・アルファ:腫瘍壊死因子)を抑える抗TNFα抗体で、大腸の炎症を悪化させるTNFαのはたらきを抑えることにより、潰瘍性大腸炎の症状を軽減する薬です。TNFαは免疫にかかわっている物質のうち特に重要なものの一つで、普段は細菌や異物から体を守る大切な役割を持っていますが、免疫異常によって過剰になるとからだの細胞や臓器に作用して、炎症を引き起こしたり悪化させたりする原因にもなります。潰瘍性大腸炎の病態に、体内のTNFαが大きく関与していることがわかってきました。シンポニーはこのTNFαの作用を抑えることにより、潰瘍性大腸炎の症状を軽くしたり失くしたりするお薬です。
シンポニーは、レミケード、ヒュミラと同様に最先端のバイオ技術を駆使して作られた生物学的製剤で生物がつくりだす抗体を利用した医薬品です。ワクチンが、特定のウイルスだけに結合するように、抗体は特定の異物(抗原)に結合して、その異物を体内から取り除くタンパク質です。生物学的製剤(抗体製剤)は、このような抗体の働きに注目して体内で悪影響をあたえる特定の物質(潰瘍性大腸炎の場合はTNFα)だけを取り除いて、病気を治療することを目的としています。
シンポニーとレミケード、ヒュミラとの違いは シンポニーは生体の自然な免疫反応を利用した「トランスジェニック法」という方法で製造された完全ヒト型TNFα抗体です。レミケードは一部にマウス由来のタンパクを持つキメラ型TNFα抗体です。ヒュミラはマウス由来のタンパクを含まないヒト型TNFα抗体ですが、完全ではありません。抗体製剤を使用すると多くの患者さんは効果が長続きしますが、一部の患者さんに、最初は良く効きますがだんだん効果がなくなる現象がみられます。これを2次無効といいますが、この現象には抗薬物抗体(生物学的製剤を異物として認識され産生される、抗TNFα抗体などの生物学的製剤に対する抗体)が深く関与しています。このような抗体の差(完全ヒト型か、ヒト型かキメラ型か)によりシンポニーは他の製剤に比べて抗薬物抗体ができにくく、その結果2次無効の発症が低くなる可能性が考えられます。
シンポニーを含む生物学的製剤による治療は、今までの治療(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、アザチオプリン等)で効果が十分に得られなかった中等症から重症の潰瘍性大腸炎の患者さんが対象となります。
例えばステロイドを長期間服用しているのに中止できない、ステロイドの服用を続けているが段々血便、腹痛などの症状がおさまらなくなってきた、入退院を繰り返してしまう、ペンタサ、アサコール、リアルダ、イムランなどを服用しているが症状が改善しない、このような患者さんたちに投与するとよいと思われます。
投与方法は初回200mg(4本)皮下注射し、2週間後に100mg(2本)を皮下注射します。以後は100mg(2本)を4週に1回皮下注射します。同じ皮下注射ですが自己注射ができるヒュミラと違い医療機関(クリニック、病院)で医療スタッフ(医師、看護師など)が皮下注射をします。
シンポニーの臨床試験(国内および国際共同試験)では、212例中1例(0.5%)に注射部位疼痛が認められました。注射時の痛みはあまり心配しなくてよいようですね。
当クリニックでもこれまでのところ注射時の痛みで困っているかたはいません。
患者さんが心配な副作用としては よく見られるものとして上気道感染や副鼻腔炎など、風邪のような症状です。また皮膚に発疹がでることがあります。多くの場合は塗り薬により収まってきますが、まれに発疹の症状が重くシンポニー投与を中止しなければならないこともあります。可能性のある重い副作用としては敗血症、肺炎、結核などの重篤な感染症や、通常では感染することが少ない真菌などによる日和見感染症(免疫力や抵抗力が低下しているときに引き起こす感染症にかかりやすくなる可能性があります。当クリニックではレミケード、ヒュミラ、シンポニーなどの抗体製剤を多くの患者さんに使用してきましたがこれまでは重篤な感染症をおこしたかたはごく少数例です。今後の十分注意しながら投与していきたいと心しています
シンポニーが実臨床で使用可能になって約1年になります。当クリニックでもこれまで(2018年4月時点)で28名の患者さんに投与しています。レミケード、ヒュミラと同様で潰瘍性大腸炎の治療に困っている患者さんにとって良く効く印象です。副作用もレミケード、ヒュミラとほぼ同じで特殊なものはないようです。
レミケード、ヒュミラ、シンポニーは同じ抗TNFα抗体なので効果や副作用は基本的に同じとされています。どれを選択するかは病気の経過 病気の程度 範囲 患者さんの希望(投与方法がそれぞれ異なるので)を総合的に考慮して主治医の先生とよく相談して決定するのがよいでしょう。
この記事のを書いた人
石田 哲也
石田消化器IBDクリニック院長
大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員