2021/12/9  ライフイベントを考慮したIBD(潰瘍性大腸炎 クローン病)診療

IBD患者さんの妊娠・出産

上記の演題で 北里研究所病院の日比 紀文 先生が司会をして 国際医療福祉大学 三田病院の渡辺 知佳子先生が講演してくれました。

 

基礎疾患やお薬 放射線暴露とは無関係に妊娠合併症は一定の確立で発生します

妊娠合併症の自然発生率:自然流産15%、先天異常3-5%、低体重9% 早産5%

潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんは病状が落ち着いた状態(寛解期)であれば 概ね安全に妊娠 出産が可能です(全体ではほんのわずか早産や低体重が増えています)。妊娠成功のためには潰瘍性大腸炎、クローン病の病状コントロールが何より大切で 活動期に妊娠すると病気が悪化しやすいので寛解期に妊娠するのが望ましいです。妊娠しやすさは 潰瘍性大腸炎は一般のかたと変わりなく クローン病は少し妊娠しにくいという結果です。病気のこともあり妊娠に時間がかかることもあるのでそのような場合は体外受精も考慮したほうがよいでしょう。クローン病は以前、腹部の手術が多かったのでこのような結果になったと思われますが最近は腹腔鏡の手術が増加し 改善してきています。また妊娠すると病気が悪化するのではないかとか 子供さんに遺伝してIBDになるのが心配とか 病気のために産み育てる自信がないとかの理由でお子さんを希望しないご家族もあります。

妊娠中 潰瘍性大腸炎は妊娠初期と周産期は少し悪化しやくなります。クローン病は影響ありません。催奇性・胎児毒性が報告されている医薬品の中にIBD治療薬は含まれていません。最も再燃リスクが高くなるのは 赤ちゃんへの影響が心配でお薬の服用を自己中断してしまうことです。特に潰瘍性大腸炎でペンタサ アサコール リアルダなど5-ASA製剤を勝手に中止すると再燃しやすくなります。妊娠するとCRP 血沈は上昇 貧血が起こります、便中カルプロテクチンは影響受けません。妊娠してもIBDの治療は基本的にはかわりありません。ステロイドは使用可能ですが妊娠後期には感染症のリスクとなるので漸減中止します。イムランはヒトの疫学研究では妊娠に影響はないようです。生物学的製剤は妊娠中使用しても胎児の感染症などのリスクは増加せず、投与中止は産後の再燃リスクが上昇するので基本的には継続して投与してよいでしょう。サラゾピリン服用中の時は葉酸を補充します。ゼルヤンツはヒトのデータが不足しているので慎重に投与したほうがよいでしょう。妊娠中 腹部エコーやMRIは通常通りに検査可能です。X線の被爆は避けた方がよいですが胎児に悪影響を与える被爆量に比べて一般的なレントゲン検査 CTの被爆量ははるかに低いため妊娠中に検査を受けたとしても多くは問題になりません。妊娠中の大腸カメラも避けた方がよいですがS状結腸までの検査は比較的安全とされています。

妊娠中生物学的製剤を使用していた場合は 赤ちゃんへのBCGとロタウイルスワクチンの接種を6ヶ月以後にしたほうがよいでしょう(投与された抗体の消失を待つので)他のワクチンはスケジュール通りに摂取できます。授乳も基本的には問題ありませんが サラゾピリンとゼルヤンツは避けた方がよいとされています。