2023/1/31 大分消化器病懇話会学術研修会

炎症性腸疾患の病態と腸内細菌叢の関わり

滋賀医科大学 消化器・血液内科 教授 安藤 朗 先生 講演

大分大学医学部 消化器内科 教授 村上 和成 先生がご司会をされ、腸内細菌について日本で最も見識の高い安藤先生が上記演題で講演されました。

 

腸管内は 嫌気性が保たれるおかげで嫌気性菌により食物繊維などが発酵され 酪酸、プロピオン酸。酢酸、短鎖脂肪酸の産生につながります、 酪酸の産生は 調節性T細胞の誘導、NF-κβの抑制につながり 腸管免疫の恒常性が維持され 潰瘍性大腸炎 クローン病の発症が抑えられます。

短鎖脂肪酸は肝臓で中性脂肪の合成に使用され人間の必要エネルギーの30%を占めます。

血液中の酸素を腸管上皮細胞が消費してそのエネルギーにするのですが 腸管上皮細胞が障害されたり その透過性が亢進する(leaky gut)と 血液中の酸素が腸管内に漏れ出て嫌気性が維持できなくなり嫌気性菌が減少(dysbiosis)して酢酸産生が低下し潰瘍性大腸炎 クローン病の発症につながります。

これまでの研究では健常人と潰瘍性大腸炎患者さんの腸内細菌叢はあまり変化がありませんが クローン病患者さんとではかなり異なっています。クローン病発症の機序の一つとして腸内細菌叢の多様性の低下、酪酸産生菌の減少が知られています。酪酸菌は乳酸菌の作る乳酸を利用して酪酸を産生します。そのためビオフェルミンなどの乳酸を補充することはdysbiosisの改善に大切です。

Dysbiosisの改善 治療の一つとして糞便移植があります。糞便移植が有効な病気として強いエビデンスがあるのはクロストリジウム腸炎の治療です。欧米では致死的なクロストリジウム腸炎が頻発しており 頻回に再発した場合は糞便移植がガイドラインでも推奨されています。最近ではその治療方法も進化し 内視鏡で散布するのではなく 糞便カプセルを内服する!方法もあるようです。日本人と欧米人では腸内細菌叢が大きく異なるためなのか 今のところ日本においてクロストリジウム腸炎は臨床上の大きな問題にはなっていません。国内で1回だけ糞便移植を行う方法で重症度の高くない潰瘍性大腸炎患者さんに対する治験が行われましたが その成績:4週後の有効率30%、寛解率0%であまり高くないようです。クローン病に対しては腸管に狭窄があるため散布困難なことが多くその実施が少ないそうです。糞便移植は2型糖尿病、過敏性腸症候群、多発性硬化症、慢性疲労症候群、原発性血小板減少性紫斑病などの病気で有効であった患者さんが報告されています。

Dysbiosisは動脈硬化 非アルコール性脂肪肝 肥満などの代謝性疾患にも関連があるようです。