2025/8/7 Crohn’s disease Web Seminar
クローン病の未来を切り拓く
-新たなStandard Of Careの可能性-
東京科学大学病院 光学診療部教授 大塚 和朗 先生が座長をされ、
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 教授 松岡 克善 先生がご講演されました。
クローン病 潰瘍性大腸炎を患っていても 生涯にわたって患者さんが 健康な方とかわらない普通の生活がおくれるようにすることが患者さん側からみた炎症性腸疾患治療の目標です。英語では 以前は “patient living with IBD”であったのですが 最近は“ people normally living with IBD”とかわりました。そのためにはクローン病の再燃 入院 手術 発癌を防ぐことが必要です。主治医にとってはこれが日々の診療目標です。
クローン病は進行性の病気ですので炎症をしっかり抑えて腸管ダメージを防ぐことが大切です、ある治験の成績では Deep Remission:臨床症状なし(CDAI<150)+ 内視鏡寛解(CDEIS<4,潰瘍なし)を治療開始1年以内に達成すると 5年後 患者さんの90%は再発 入院などを経験しません。達成できていない患者さんの60%にクローン病の再燃がおこっています。このように臨床寛解と内視鏡寛解の2つを達成することが肝要です。
生体内において ある細胞から分泌されて別の細胞を動かす物質をサイトカインと呼びます。その中で特に免疫細胞に関与するサイトカインをインターロイキンと称します。ウィルス感染は樹状細胞よりIL12 を介してnaïve T細胞をTh1細胞に分化させIFNγを介してマクロファージよりTNFαを放出させます。真菌 細菌感染は樹状細胞よりIL23を介してnaïve T細胞をTh17細胞に分化させIL17を介して炎症の場に好中球を引き寄せます。生体は細菌感染に対して免疫反応を起こしますが 潰瘍性大腸炎、クローン病では感染がないのにこのような免疫反応が起こっています。腸の炎症においてIL23は中心的なサイトカインです。腸管のマクロファージはIL12とIL23を高産生しています。
トレムフィア(グセルクマブ)はp19に結合しIL23のIL23受容体への結合を抑制することによりIL17,IL22を減少させます。マクロファージにはCD64が発現していますがCD64にイムノグロブリンが結合すると炎症性サイトカインが放出されます。トレムフィアと同じp19抗体であるスキリージはLALA変異を加えてCD64を刺激しないようにしています。トレムフィアはCD64を刺激してしまいますがこの場合は炎症性サイトカインが放出されません。腸粘膜ではCD64陽性のマクロファージがIL23を高産生しているのでトレムフィアはマクロファージより放出されたIL23をその場でブロックできます。
クローン病に対するトレムフィアの有効性を検討した大規模治験:GALAXI(日本人が10%程度含まれる)において 12週の臨床的改善(ΔCDAI<100)および48週の臨床的寛解(CDAI≦150)を同時に達成がプライマリーエンドポイントでした。トレムフィア100mgx8週維持:48%、トレムフィア200mgx4週維持:52%、プラセボ:10%の成績でした。この治験ではステラーラと治療成績を比較しており 48週の臨床寛解;ステラーラ:63%、トレムフィア100mgx8週維持:65%、トレムフィア200mgx4週維持:70%、48週の内視鏡的寛解;ステラーラ:25%、トレムフィア100mgx8週維持:38%、トレムフィア200mgx4週維持:37%、日常診療の治療目的であるDeep Remission(臨床寛解+内視鏡的寛解):ステラーラ:22%、トレムフィア100mgx8週維持:30%、トレムフィア200mgx4週維持:34%でした。これらの成績をみるとステラーラとトレムフィアでは臨床症状では治療成績に差はないようですが内視鏡評価ではトレムフィアが上回っており寛解の質が違うと思われます。バイオnaïveとバイオfailureではnaïveの方が成績がよいですがそれほど差はありません。一度有効になると長期に効果が維持されます。副作用は頭痛と投与部位反応が5%程度で特異な副作用や重篤な副作用は報告されていません。
トレムフィアを皮下注で寛解導入する(400mg皮下注X3回)の大規模治験:GRAVITIでは 12週の臨床寛解:56% 臨床改善:73%、48週の内視鏡的寛解:トレムフィア100mgx8週維持:30%、トレムフィア200mgx4週維持:38%、Deep Remission;トレムフィア100mgx8週維持:26%、トレムフィア200mgx4週維持:34% でした。GALAXI(静注で導入)とGRAVITI(皮下注で導入)の治療成績にかわりないので トレムフィアは患者さんの好みや医療者の事情にあわせてどちらでも導入可能です。
p19抗体3剤:スキリージ オンボ- トレムフィアの使い分けですが大規模治験の治療成績を比較すると、治験それぞれで対象 評価方法 特に治験の継続方法が異なるので 比較可能な指標は12週の内視鏡的改善です。これでみると30%~40%で3剤とも大体同じ成績です。トレムフィアは3剤の中では利便性や投与の柔軟性が優れています。