2025/8/28 Ulcerative Colitis Web Seminar

潰瘍性大腸炎の未来を切り開く

-新たなStandard Of Careの可能性-

 

関西医科大学医学部 内科学第三講座 教授 長沼 誠 先生が座長をされ、

弘前大学大学院医学研究科 消化器血液免疫内科学講座 教授 櫻庭 裕丈 先生が

ご講演されました。

 

潰瘍性大腸炎の治療目標は 再燃させない 発癌させない QOLの維持です。粘膜治癒:潰瘍性大腸炎の大腸粘膜内では好中球 好酸球の増加 IL-10の低下が起こっています。大腸カメラではMES:0を達成するとその後の予後がよくなります。MES:0はMES:1より予後がよいですがその差はIL17やIL21などのTh17系細胞のサイトカインにあり これをコントロールするとより予後が改善します。臨床寛解(pMayo≦2)、内視鏡寛解(MES:0)、組織的寛解(Nancy Index:0)をすべて達成すると 薬剤の追加治療 入院 手術 発がん、死亡を減らすことができます。

臨床寛解 内視鏡寛解を達成したのちに再燃した潰瘍性大腸炎の患者さんは組織内のTh17細胞系のサイトカイン(IL17,IL22)が高値です。潰瘍性大腸炎の慢性化はIL23,再燃にはIL12が関与しています。治療の際にはどのサイトカインをターゲットにするか考えることも大切です。

サイトカインの効果は細胞内伝達を介して広がってゆきます。炎症性腸疾患の細胞内伝達の代表の一つはJAKです。TNF-αはJAKを介しません。Th17細胞(IL12,IL23)はJAK2,Tyk2です。IL6,INFγはJAK1,JAK2です、Th2細胞、IL15, IL21はJAK1,JAK3です。

潰瘍性大腸炎が内科治療にもかかわらず難治のために手術することは減少していますが 潰瘍性大腸炎による発癌は増加しています。潰瘍性大腸炎からの癌化の機序の一つとしてTNF-αが関わっています。基礎実験では抗TNF-α抗体投与により炎症による発癌を抑制できました。フランス人のコホート研究では10年を超える長い病歴の潰瘍性大腸炎の患者さんは抗TNF-α抗体の投与により発癌のリスクが減じています またバイオ製剤などの分子標的治療をした患者さんは 5-ASA製剤のみの治療の患者さんより発癌リスクが低いことも報告されています。

抗TNF-α抗体の2次無効にはオンコスタチンの上昇が関与していますがJAK阻害薬をこれを抑制します。

トレムフィアはp19を抑制しIL23の産生を抑えるのが主たる作用機序ですが Fc受容体を介したCD64によるマクロファージ活性化による炎症細胞の局所への動員を抑えることが もう一つの作用機序です。炎症が慢性化すればするほどp19を介した炎症経路を抑制することが重要です。抗p19抗体は3種類:トレムフィア、スキリージ、オンボー がありますが維持治療において投与方法が異なります。有効性はほぼ同等で 3剤ともに ステロイド難治例に有効ですが 分子標的薬経験後の難治症患者さんにも有効なことが証明されています。2次無効が少なく、反応した患者さんは長期に継続できます。副作用は少なく安全性が高いです。抗P40抗体:ステラーラはIL23に加えIL12 も抑制します。IL12は抗腫瘍免疫としての役割があり 長期に抑制する場合には懸念があります。トレムフィアが最も適するのは 外来で治療可能な中等症の患者さんです。徐々に有効性が発揮されるので少しでも反応した方には可能なら粘って投与してもよいでしょう。内視鏡寛解1年2年と達成率が上昇していきます。また治験において前治療がどのような治療;抗TNF-α抗体、JAK阻害薬、抗インテグリン抗体 抗p40抗体などでも有効性を認めました。もちろんナイーブ患者さんにも有効で、分子標的薬経験後の患者さんよりも治療成績は上回りますが 1剤目は抗TNF-α抗体などにまかして2剤目以後にとっておいてもよいでしょう。維持治療に移行するさい 著効したか便中カルプロテクチンなどを利用してよく見極め 著効なら100㎎X8週で維持 そうでないなら200㎎X4週で維持がよいかもしれません。