2025/11/17 有効性の事前予測への挑戦

銀座セントラルクリニック 院長 鈴木 康夫先生が座長をされ 杏林大学医学部 消化器内科学 教授 久松 理一 先生が講演されました。

2002年に抗TNFα抗体が臨床で使用できるようになり 2017年にはその他のメカニズムのバイオ製剤が登場してきています。多くの新薬が臨床で使用可能となったので潰瘍性大腸炎 クローン病患者さんの予後は2004年を境に改善してきています(手術率の低下)。さらにバイオマーカーなどの登場 T2Tアプローチの普及などで経過観察の技術が向上したのもその理由の1つかもしれません。

多くの治療薬が実臨床で使用可能となっていますが薬剤を選ぶかは本来 お薬のメカニズム(MOA:mode of action)と患者さんのサイトカインプロフィールで決定されるべきですが 現在の臨床ではそのレベルには達していません。お薬の特徴 患者さんの好み これまでの病歴 医療者側の事情などを勘案し総合して決定されます。

新規薬剤が次々と登場していますが どのお薬もだいだい短期の寛解導入率が30%程度で 70%などの飛び抜けた成績を示す薬剤はなく “Therapeutic Ceiling:治療の天井”が存在します。治療の有効性をより高めたり、D2T(difficult to treat)患者さんへの治療成績を向上させるため分子標的薬併用療法の治験が開始されています。VEGA試験と称され 難治の潰瘍性大腸炎に対し シンポニー+トレムフィア併用、シンポニー単独、トレムフィア単独の3群で有効性を比較しました。12週の寛解導入率はそれぞれ:44%、22%、31%でした。併用療法は安全性や医療費高騰の懸念があります。

お薬の有効性を投与前に予測できれば臨床では非常に役立ちますが現時点では不可能です。理由としては ゲノムではわからない 病態に関わるサイトカイン シグナルが複数あること、病気の時期によりサイトカインプロフィールが異なること、サンプルのheterogeneityなどが考えられます。最近 分子標的治療効果の事前予測ができないか さまざまな取り組みが行われています。治験データの臨床所見からの予測では患者さんの背景が限定される、腸内細菌叢からの予測ではマイクロバイオーム検索を1人1人の患者さんに行うことは実際には困難なので まだまだ事前予測は困難です。杏林大学では 血液サイトカインプロフィールの機械学習による解析を行ってみました。サイトカイン・ケモカインのプロフィールにより潰瘍性大腸炎・クローン病は5つのクラスターに分類できます。潰瘍性大腸炎の方がクローン病より多様性が高い結果でした。またクラスターにより最初のお薬の有効性が異なります。バランスのとれたクラスターIは最初の分子標的治療の有効率は70%ですが プロフィールがいびつなクラスターVは有効率が30%です。