|2019年1月17日|クローン病の新薬、ステラーラの実際の臨床について
クローン病は発病すると以前はお腹の手術(腸管切除)を受けなければならない病気でした。
2000年より前は発症して10年経つと50%~80%の方がお腹の手術を受けていました。
さらに一度手術を受けた方もさらに10年経つと約半数の方がもう一度手術を受けていました(再手術)。
さらにまた10年経つとまた約半数の方がまたまた手術をうけていました(再々手術)。
このように2000年以前は 10歳台で発症し50歳になるまでに1~3回以上も手術を経験するというのがクローン病の病気の経過であったのです。そのような状況に対し欧米では1990年後半、日本においては2002年から抗TNF-α抗体(2002年よりレミケード、2006年からヒュミラ)が使用できるようになりました。
前回ご紹介しましたがこの抗TNF-α抗体は 免疫系の中で非常に重要な働きを持ったTNF-αの作用を強力に抑える生物学的製剤です。これらのお薬が使用できる以前の治療(ステロイド、栄養療法、メサラジン製剤など)では病気の進行(結局お腹の手術を受けることになる)を止めることは難しく多くの患者さんが手術を受けなければならない状況でした。抗TNF-α抗体(レミケード、ヒュミラ)は 実際に使用してみると大変、大変良く効くお薬で これらの薬剤の登場以来 クローン病の腹部の手術が減って、患者さんが入院しなくなった、また入院しても入院期間が短くなったことはよく主治医として実感されます。
しかしこの抗TNF-α抗体にも上記のようなメリットと残念ながらデメリットがあります。デメリットとしては
- 抗TNF-α抗体が最初はよく効いていたのにだんだん効果が弱くなる(効果減弱)
- 副作用(特に皮膚疾患)の二つがあります。当クリニックでステラーラ治療を開始して約1年半(2019/1月現在)ですが ステラーラはこの二つで困っている患者さんに大変役立っています。まず効果減弱した患者さんに対してレミケード、ヒュミラからステラーラに変更すると、約2ヵ月後には3人に1人がすっかり良くなって(寛解)2人に1人は前よりよくなった(改善)という結果でした。
継続して投与すると寛解 改善になる方の割合がだんだん増加してきました。次に副作用に関してですが、文献での報告、当クリニックでの経験を合わさると、抗TNF-α抗体を長期に使用した場合、約30%の方に軽いものですが皮膚のトラブルが発生し、5~10%の方で塗り薬などの治療が必要になるようです。実際の治療で困っていたのが レミケード ヒュミラでお腹の調子はよいのですが、治りの悪い皮膚の発疹がでて皮膚科などに通ってもなかなかよくならないというような患者さんでした。このような方が3%程度いらっしゃいました。
この患者さん達をステラーラに変更すると、ほぼ全員が、お腹の調子はよい状態を維持できたまま難治性の皮疹が改善してとってもよい経過となっています。
このように当クリニックのステラーラの使用状況は、レミケード、ヒュミラで治療効果が弱くなってきた患者さんが2/3、効果はあるが皮膚疾患で困っている患者さんが1/3ぐらいです。
もちろんステラーラは維持療法になると投与期間が長く(2~3ヶ月)投与時間が短い(皮下注射)という利点がありますので今はまだ少数例ですが、病状などの状況が会えば今後はレミケード、ヒュミラをまだ使用していないクローン病患者さんにも使用していこうと考えています。当クリニックにおいてステラーラを使用して副作用がでた患者さんは現時点で32例中1例でした。この方はステラーラが体質的に合わなかったようで投与後発疹などが出現したため、投与中止としました。副作用の発症割合としては抗TNF-α抗体より少ないような印象です。
患者さん1人1人に病気の状況、生活環境などが異なりますので、それぞれに合った最適の治療法を患者さんと一緒に考え実践するように今後も心がけたいと思っています。
この記事のを書いた人
石田 哲也
石田消化器IBDクリニック院長
大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員