|2020年1月13日|炎症性腸疾患(IBD)の内服薬ゼルヤンツについて

人体内ではウィルスや細菌に感染した場合に体を守るために白血球からいろいろな物質がでています。
それらは総称して「サイトカイン」と言われています。

炎症性腸疾患(IBD)(クローン病:CD、潰瘍性大腸炎:UC)においては本来体を守る役割のサイトカインが免疫異常のため過剰に産生され、その結果、腸粘膜に潰瘍ができて腹痛、下痢、下血をおこしています。
潰瘍性大腸炎に現在(2020/1月)使用できる生物学的製剤のうち、レミケード ヒュミラ シンポニーはTNF-α、エンタイビオは接着因子の働きを阻害します(エンタイビオに関しては後日解説する予定です)。
このように生物学的製剤はそれぞれの薬剤がある1種類の特定のサイトカイン、物質を細胞の外でブロックすることにより、細胞に炎症を起こす刺激が入らないようにして働きます。

前回のおさらいですが、これに対してゼルヤンツは細胞の中でサイトカインからの情報が伝わる(JAK-STAT経路)事を妨げ、免疫を抑制して炎症を抑えます。(特に生物学的製剤と違う点は、サイトカイン受容体からの刺激を細胞のなかで遮断することです)JAK-STAT経路は複数の種類のサイトカインに関わっているのでここを抑えるので多くのサイトカインの働きを抑えることができます。

お薬の効き方としてはステロイドと似ているところがあります。生物学的製剤が2週~3ヶ月と期間を空けて投与できるのに対し、経口薬なのでゼルヤンツは毎日内服するお薬です。

このお薬の最大のメリットは経口投与で、患者さんの利便性が良い点です。

注射が苦手だという患者にも使用できます。

生物学的製剤は投与中に効果が落ちる(2次無効)ことが問題ですが、このお薬は2次無効が起こる可能性が低く、長期に安定して使用できるかもしれません。
またお薬の効く時間が短いので副作用が発現した際に投与中止すれば早く回復できる点も長所です。治験の成績などをまとめますと、経口薬であるにもかかわらず注射剤の生物学的製剤と同じくらいの効果が得られます。

これまでの治療(ステロイドが効かない、ステロイドを減らすと再燃する、生物学的製剤が効かない、生物学的製剤使用中に効果が落ちて再燃してきた、免疫調節剤が効果ないなど)の効果不十分な患者さんに使用します。

ただし、多くのサイトカイン、ホルモンに作用するので生物学的製剤に比べ、全身性の副作用が問題となりやすく、感染症 特に帯状疱疹の発症が多くなるようです。特に高齢のかたは注意が必要です。
ゼルヤンツ使用中に皮膚にピリピリする感じがあったり、ブツブツが出た場合はすぐに主治医に相談しましょう。また他の薬剤や食物からの影響でお薬の効果に差が出る場合があるので服用開始前に併用薬を主治医と確認することも必要です。

最後になりましたが、ゼルヤンツを含め経口薬はキチンと決められた量を毎日服用することがお薬の効果を最大限に引き出す最も重要な点です。このお薬は最初の2ヶ月は朝夕2錠ずつ 以後再燃を防ぐために服用する場合は朝夕1錠ずつ服用します。服用数が比較的少ないので根気よく飲み続けましょう!

この記事を書いた人

石田 哲也

石田消化器IBDクリニック院長

大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員