|2019年10月12日|生物学的製剤と低分子化合物(いわゆる経口薬)について

潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症を起こす病気です。
直腸など大腸の一部または大腸全体の粘膜層に潰瘍やびらんを生じ、ひどい下痢や腹痛を起こします。また血便をともなうことも多いです。完治は難しく、そのような症状がでる活動期と、軽快する寛解期を繰り返します。

潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの炎症性腸疾患(IBD)が発症する原因はいまだに突き止められていませんが 遺伝による体質、食事の欧米化やPM2.5 黄砂の飛来の増加などの環境の変化によりUC患者さんの体の中では免疫の過剰反応がおこっているようです。

免疫の過剰反応とは、おおまかにまとめると 本来体を守るはずの白血球から必要以上の「免疫をコントロールする物質(サイトカイン)が放出されている状態です。サイトカインはTNF-α、IL-6、IFN-γなど種類がたくさんあります。例えばレミケード、ヒュミラ、シンポニーはこのうちTNF-αの働きを抑える薬です。ステラーラはIL-12/23を抑えます。これらは 主としてサイトカインを標的にしたもので、生物を用いて遺伝子工学の手法により作成したタンパク質を生物学的製剤と総称されます。

生物学的製剤は大きなタンパク質であるため以下の特徴があります。

  1. 口からではなく静脈注射や皮下注射で投与され比較的長期間体の中に存在することです。おかげで2週から3か月毎の投与ですみます。
  2. 免疫反応により体内に生物学的製剤に対する抗体(抗薬物抗体)が産生される場合がある。残念なことに抗薬物抗体ができてしまうとその生物学的製剤の効果は弱くなってきます。またそのため繰り返し投与すると副作用が出たり依然ほど効果がなくなることもあります。
  3. 大量投与しても比較的安全です。

それに対し皆さんが口から服用するお薬は低分子化合物といいます。低分子化合物はこれまでの手法である化学合成で作成した薬物です(皆さんが日頃服用する経口薬)。
薬剤低分子化合物と生物学的製剤の違いは

  1. 経口投与のため手軽
  2. 体内から短い時間で排出される、そのため毎日服用が必要
  3. 抗薬物抗体はできないが予測できない副作用:アレルギー反応が起こることがあります。しかし抗薬物抗体ができないので繰り返し投与することができます。
  4. 投与量が少ないと効果がなく 多すぎると副作用が出やすい。UC, CDの治療にこれまでの使用可能である生物学的製剤:レミケード(インフリキシマブ)、ヒュミラ、シンポニー、ステラーラ、エンタイビオに加え 最近新しい経口薬=低分子化合物:ゼルヤンツがUCに使用できるようになりました。

次回はゼルヤンツについて解説する予定です。

この記事を書いた人

石田 哲也

石田消化器IBDクリニック院長

大分医科大学大学院(病理学)卒業後、米国にて生理学を学ぶ。帰国後、炎症性腸疾患(IBD、潰瘍性大腸炎、クローン病)を専門に研究、治療。
元:大分赤十字病院 消化器科部長
現在:日本内科学会認定医|日本消化器病学会専門医|日本消化器内視鏡学会指導医|日本消化管学会胃腸科指導医|日本プライマリーケア連合学会専門医|日本消化器病学会九州支部評議員|日本消化器病学会評議員